日経新聞「あすへの話題」 2015年10月21日

日本語はすべて「あいうえお」の母音に子音がついてできている。あいうえお・かきくけこ・さしすせそ・・などの50音はすでに平安時代、「五音」といって中国の漢字の発音を知る手段として図式化されていたようだ。さらに江戸時代になり、国文学者の契沖(けいちゅう)が横列に「あかさたなほもよろを」縦列に「あいうえお」の現在の並びに整え「50音図」と名づけたという。なんでも古代インドの音声学からくる並び方に習ったらしい。
 俳優やアナウンサーの養成プログラムには母音の発声練習が大切な要素として組み込まれている。母音がきれいに出ると聞き易く品の良いことばとしてつたわる。稽古時に芝居のセリフを母音だけで行う劇団もあるくらいだ。たとえば「こんばんは」を「おんあいあ」というように。日本語が美しく聞こえるいくつかの要因のうち、まず一番にあげられるのがこの母音の発音・発声であると思う。母音がきれいでなければ他のことばも美しくは聞こえない。言葉を発する身体を楽器にたとえるなら、口は音を出す楽器の最後の部分である。口の形がちゃんとしていないとなかなか伝わりにくい。もったいない気がする。だれでもその人ならではの声を持っていると私は思う。その声と母音を含む50音の発声を意識することは美しい日本語を目指すことだとおもう。その意識を小学生のうちに子供達に分かっておいてもらう時間が必要におもう。
 このごろはメールやパソコンなどが主流で言葉を発する機会が以前より少なくなった。大人ばかりでなく口を開くのが苦手の子どもも多いと聞く。感じの良い日本語が話せる自信は子供のころにつけておきたい。またお年寄りもひとりの時など新聞や好きな詩などを声を出して読んでみてはいかがでしょうか?
2020年の東京オリンピック開催を受けて、小学校から大学入試に至るまでの英語教育が今までと大きく変わり始めているという。これまでの聞く、話す、読む、書くに加え対話が重視され、伝わる英語、討論や交渉のできる英語教育に力が注がれるらしい。英語の成績はまあまあながらいざ会話となると全く用がたたず、しどろもどの私にとって羨ましい限りである。と同時にそれに負けず劣らず、日本語という言葉の美しさにも注目したい。
だれでも美しい日本語を話すこつについて分かっているようになれたら・・音の発声tともう一つ、鼻濁音(びだくおん)によるところが大きいと私は思っている。鼻濁音とは「がぎぐげご」が鼻にぬける音だ。小学校の、「が」や私が行くの「が」がこれに当り、ことばがやわらかく美しく聞こえるが、地域や親などまわりで鼻濁が出来ないとそれを聞いて育つ子供も鼻濁音は発声出来ない。
日本語はすべて「あいうえお」の母音からできている。この母音のみに着眼するとそのルーツはハワイを含むポリネシアなど南太平洋諸国の言語の影響が考えられるという。ウラルアルタイ語が日本に広まる弥生時代以前のことらしい。
子供の時から使っていることばは、その人のものの考え方や感じかたなどと密接にかかわっていて、ことばが人間を作るとも言える。日本語で物を考え感じの良い日本語を話せる自信は子供のころにつけておきたい。
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