日経新聞「あすへの話題」 2015年7月22日

 大学で気象学の基礎を担当して7年になる。授業の初め、いつも私は学生にひまわりからの衛星写真を見せることにしている。スクリーンに映し出される連続の雲画像は日本付近ばかりでなく、地球全体の雲の流れや発達の様子を伝えてくれる。地球規模で動く雲の流れを見ていると、あぁほんとうに、気象には国境なんてないのだなあと思う。ひまわりは赤道上およそ3万6千kmの上空にある。正確には35786km上空で、その昔「ミゴトナヤロー」として覚えた。いつも同じところからの映像を送って来るが、これは衛星が地球と同じ速度で自転しているためだ。
 このひまわりの衛星が先日、7号から8号へとバトンタッチされた。これまでは白黒の写真に人工的に色づけがなされていたが、8号からは正真正銘 世界初のカラー写真だ。今まで識別の難しかった高さの違う雲も、立体的に見分け易くなったし、火山の噴煙、流氷、黄砂などとも区別出来る。うれしいのは、連続の雲の流れがなめらかで美しく鮮明であること。そして、なにより素晴らしいのはこれまで30分に一度だった観測が、日本付近に限れば2.5分に一度と、今までの12倍の細やかさで送られて来ることだ。ゲリラ豪雨など大きな被害をもたらす積乱雲の急激な発達も、細かくリアルに監視できる。初めてひまわり1号の画像がTV画面に登場してから38年、今回の8号からの情報は、それに続く第2の気象新時代に入ったことを知らせてくれる。送られてくる膨大なデータを防災などにうまく生かすにはどう料理すればよいか?そのための技術の開発など、取り組みはたった今始まったばかりだ。すべてのデータが活用出来るようになるのは数年先と言われる。

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